コラム 2025.08.01
精液検査をする際にはだいたい3日くらいの禁欲でと言われます。実際のところ、2021年に最新版が発表されたWHOのヒト精液の検査および処理に関するLABマニュアルでは、最低2日間、最大7日間の射精禁欲後に精液を採取することを推奨していますし、ESHREは3~4日間の禁欲期間を推奨しています。射精禁欲期間を長くすれば、精液量と精子数は増加する可能性があるものの、精子の運動率やDNA損傷率は悪化する可能性が示唆されています。1) 最近の研究ではより長い禁欲より、より短い禁欲の方が妊娠率、出生率、DNA損傷率を改善するとする報告もあります。2)
しかしながら例えば2週間射精していなかった方が、検査3日前に射精して禁欲3日としたとして、精子の質は担保されるのでしょうか。またいかに短いのがいいとはいえ、12時間以下の超短時間の禁欲がより良いのかといえば疑問が残ります。人間の精巣上体尾部の精子は2、3回の射精で空になると言われており、1回の射精のみでは入れ替わりません。
当院では指示された禁欲期間よりも短いスパンで日常的に射精するように指導しています。つまり、3日おきよりは短い間隔で射精するということです。外来では、「少なくとも日常的に週3回程度は射精して下さい」と伝えています。AIHやIVFの前の禁欲期間は通常は48-72時間程度としています。
また、自分でデータを出したことはありませんが、肌感覚として射精頻度が少ない方は、精索静脈瘤の手術やホルモン治療をしても精液所見の改善が乏しいように感じていました。今回紹介するのは精子の所見と質を日常的な射精回数でデータとして示した論文です。3)
この論文では患者を3つのグループに分けています。過去4週間の自己申告による射精頻度(EF)に基づいて、EF1:週1回未満、EF2:週1回以上2回未満、EF3:週2回以上の3つのグループに分類されました。精子を採取する際は2~7日間の禁欲としています。
結果としては、一般的な精液所見については、EFが多いほど精子濃度、前進運動率は低下傾向にありましたが、すべて正常範囲内の動きでした。精子の活性とはEFが多いほど上昇し、DNA損傷率は低くなりました。
EFを増やすと運動率が下がってしまうことが懸念されますが、この研究では様々な交絡因子(影響する因子)を調整した結果も示しており、EFが増えることが乏精子症のリスクにはならないとしています。精子の運動性は禁欲期間の長さに相関する可能性が高いとしていました。むしろ、以前の研究で禁欲期間の短縮は総運動精子数は低下ささせるが、妊娠の成功率を改善することが示されていることから、十分な総運動精子数が確保できれば、EFが増えることに妊娠率の低下に関するリスクはないとしています。また、DNA損傷率が改善していることから、EFの増加は妊娠率の改善に寄与する可能性を示していました。
今回のこの論文ではDNA損傷率が改善することがメインテーマとしてあげられていました。今後、実際の妊娠率の変化まで提示されてくると非常に興味深い内容になってきます。
しかしながら、今回のこの論文で、射精頻度を増やすことは悪影響はほとんどなく、いい影響の方が多いと感じられました。より良い精子を取るためにと言ってサプリを飲んだり、健康的な生活をしたりなど様々なことをされている患者さんはたくさんいらっしゃいますが、そんな方でも禁欲期間1週間と記載して精子を提出する方が少なくありません。また、週3回射精をするように指導すると「そんなにですか!」と驚かれる方も多いです。
ですが、やはり精巣も人体の一部で使わなければ衰えますし、精子は新鮮な方がいいのは明らかです。射精頻度を増やして、適切な禁欲期間で採精するのは最も安価で安全な良好な精子を得る方法ではないでしょうか。
精子の質が気になっている方はぜひ実践してみてください。
1) Hanson BM, Aston KI, Jenkins TG, Carrell DT, Hotaling JM. The impact of ejaculatory abstinence on semen analysis parameters: a systematic review. J Assist Reprod Genet. 2018;35(2):213–20.
2)Sørensen F, Melsen LM, Fedder J, Soltanizadeh S. The influence of male ejaculatory abstinence time on pregnancy rate, live birth rate and Dna fragmentation: a systematic review. J Clin Med. 2023;12(6).
3) Xi, Q., Kong, Q., Lv, X. et al. Impact of ejaculation frequency on semen parameters and DNA fragmentation: a cross-sectional study. Reprod Biol Endocrinol 23, 100 (2025).
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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