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医療コラム

コラム 2025.08.08

保険診療で正しい男性不妊治療を 病気のはなし⑫ 最近話題の最終糖化産物(AGEs)と精子の関係性

最終糖化産物(AGEs)とよく聞くようになりました

最近健康を取り扱うコンテンツで最終糖化産物(Advanced Glycation End products:AGEs)をよく目にします。これは、タンパク質と糖が加熱されてできる物質で、体内で生成されるものと、食品から摂取されるものがあります。AGEsは、医学的には加齢、動脈硬化、糖尿病合併症やアルツハイマー型認知症などの原因物質として注目されており、様々な基礎研究がおこなわれています。
AGEsは多くの細胞に含まれるRAGE(終末糖化産物受容体)と結合して、細胞の炎症を起こします。これが細胞を老化させたり機能障害尾起こしたりして、様々な問題を起こすと言われています。
これらの健康系コンテンツではこのような物質を取らないために様々なことを書いていますが、実際のところはどうなのでしょうか。男性不妊症との関連のデータもありましたので一緒に紹介しながら書いていこうと思います。

最終糖化産物(AGEs)とは

食品から摂取するAGEsは蛋白質のアミノ酸と還元糖のメイラード反応(糖化反応)によって蛋白質が変性し、生成される物質の総称です。つまり肉や魚に衣や粉をつけて揚げたり焼いたりしたときの「焦げ」です。プリンのカラメルやホットケーキの茶色い表面にも含まれているでしょう。そもそも日本人は醤油と味噌を日常的に使用しますが、それらもメイラード反応で褐色になっているため、AGEsは多いはずです。食事で摂取したAGEsの6%程度が体に蓄積するとしていましたが、いずれ代謝は排泄で抜けるものなのか、それとも恒久的に残るものなのかははっきりしませんでした。1)

上記のリンクには各食品の100g当たりの含有量が示されていますが、このデータを見る際は注意が必要です。当然ですが、肉や魚は焼けば水分も油も落ちるので、100g当たりのたんぱく質の量は変わってきます。いくつかの資料では調理することで20%程度は重量が変わるとしていました。2)3)
干物や、乾物、ベーコンなどの塩蔵品も同様です。生の食品は思ったより水分が多いので、そのためこの表で数値が高い=AGEsが高いという判断には注意が必要です。

学術論文ではなにが調べられているか

前述しましたが、AGEsは食品で摂取する分と体内で生成される分があるとしました。これらは人間の代謝に関わることなので全くゼロにすることは出来ません。AGEsが問題となる人はどのような人たちなのでしょうか。多くの論文は糖尿病や肥満の人とそうでない人を比較しており、多くの論文は糖尿病や肥満の人にはAGEsが高いとしてます。体の中に糖が消費しきれず残ってしまうと最終的にAGEsになってしまうということです。
以前から糖尿病の患者は動脈硬化が進みやすく、様々な疾患にかかりやすいとされてきました。糖尿病自体で寿命を縮めるのではなく、合併症により寿命を縮めるのです。
その原因の一つとしてAGEsが注目されています。

AGEsの精子への影響

ある研究ではRAGEは精子の先体部および赤道部に存在することが示され、膜結合型受容体のレベルは、全てのパラメータにおいて精子の状態不良と強く相関していた。特に、精子の運動性とミトコンドリア膜電位に影響が多いとされました。つまりAGEsは精子に悪影響があるとしています。4)
しかしながら他の論文では、男性不妊の明らかな原因のない不妊カップルのに対して、酸化ストレスやAGE値、ライフスタイルなどを調査したところ、皮膚蓄積AGE値や血清AGE値など、その他の臨床因子と生活習慣因子は、どの精子パラメータとも相関していなかったとしています。5)
まだまだ精子に対するAGEsの影響ははっきりしていないと言えます。それは精子がどんどん作られてすぐに出て行ってしまう細胞であるため、長期間のストレスにさらされる身体自体を構成する細胞とは異なるのかも知れません。また、精子を実際使用する層がまだ老化をそこまで気にしなくていい年齢層なのも関係している可能性があります。
しかしながら精巣を構成する細胞への影響は考慮しなければならず、少なからず影響はあると考えられます。今後研修が進むことを期待したいと思います。

予防はどうしたらいいのか

個人的には様々な情報サイトにある、「食品は揚げたり焼いたりせず生が良い」や「糖質は危険だ」、「GI値の低い食品を選ぶ」という言説はやや極端に思います。その方がキャッチ―で分かりやすいのもありますが、これまで人類は食品に火を通すことで食中毒を防いだり、穀物で安定的な食糧を得ることができ、他の動物よりも長生きできるようになってきました。当然鶏肉や豚肉の生焼けは非常に危険で他の病気をおこす原因になりますし、極端なビーガン食は健康を害します。
僕は普通に食事を楽しみ、満足できるものをきちんと食べる方がバランス的には良いと考えます。ストレスを抱え、辛い修行をしても健康になるわけではありません。
また、前述しましたが、しょうゆ・味噌・コーヒーなどはメイラード反応が強い食品ですが、なぜか問題ないとしている研究者が多いです。それは発酵なのか、量の問題ないのかははっきりしませんでした。菜の花や白菜に含まれる辛み成分のsulforaphaneや、アントシアニンはAGEsの影響を抑えてくれるようです。1) これらの成分は和食で使う材料にも多く含まれ、漬物やお浸し、紫蘇梅干しなどを食べることは和食の長年の知恵なのかもしれません。
現時点としては、炭水化物を少し控えたり、揚げ物はほどほどにするなど、糖尿病や肥満にならない程度のコントロールは重要と考えていいと思います。糖もエネルギーとして使ってしまえばAGEsになりようがありません。以前も書きましたが、糖尿病になると精子の悪化だけでなく、前進に様々な問題が起こります。
AGEsは問題になる物質というのは分かってきていますが、どのくらい採ればどうなるかまでははっきりしていません。あまり神経質にならず、心身ともに健康でいられる生活を送ることが重要であると考えます。

1) 終末糖化産物(AGEs)とAGEs受容体(RAGE)岡田 瑞恵, 岡田 悦政
愛知県立大学看護学部紀要 = Bulletin of Aichi Prefectural University School of Nursing & Health 22 9-16 2016年12月27日
2) 木村 友子, 鬼頭 志保, 加賀谷 みえ子, 内藤 通孝, 後藤 真彦, 菅原 龍幸, 鶏肉ハンバーグステーキの品質に与える味噌および蒟蒻ゾル添加の影響, 日本食生活学会誌, 2009, 20 巻, 1 号, p. 25-32
3) 門馬哲也,酒井昇,中門千晴,福岡美香,高見星司 (2006),肉類の過熱水蒸気調理における水分・油分移動について,シャープ技法,第94号,10-15
4)Browning J, Ghanim M, Jagoe W, Cullinane J, Glover LE, Wingfield M, Kelly VP. Membrane-bound receptor for advanced glycation end products (RAGE) is a stable biomarker of low-quality sperm. Hum Reprod Open. 2024 Nov 7;2024(4):hoae064. doi: 10.1093/hropen/hoae064. PMID: 39553285; PMCID: PMC11568349.
5)Chen L, Mori Y, Nishii S, Sakamoto M, Ohara M, Yamagishi SI, Sekizawa A. Impact of Oxidative Stress on Sperm Quality in Oligozoospermia and Normozoospermia Males Without Obvious Causes of Infertility. J Clin Med. 2024 Nov 26;13(23):7158. doi: 10.3390/jcm13237158. PMID: 39685616; PMCID: PMC11642397.


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