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医療コラム

論文紹介 2025.08.06

ターナー症候群における姉妹間での卵巣組織移植 ~海外の報告~

胚培養士の宮本です。

 

今回は卵巣組織を姉妹間で移植した海外の論文を2つご紹介いたします。

 

〇ターナー症候群(Turner Syndrome)について

ターナー症候群とは、女性において2本ある性染色体Xが1本欠損または機能不全である遺伝学的疾患です。

新生児の1/2500程度の確率で見られる疾患で、生殖に関しては、初潮がみられない、または早発卵巣不全(早発閉経)を併発するケースが非常に多いことが知られています。

ターナー症候群を含め遺伝学的疾患には「モザイク型」と呼ばれる遺伝学的亜型が存在します。モザイク型とは、正常な染色体本数と過不足のある染色体本数を持つ細胞が、体の中で混在している状態です。

ターナー症候群のモザイク型では、生殖機能が保たれているケースも一定数認められます。

 

〇組織移植について

脳死されたドナー(提供者)から心臓や腎臓などの臓器を丸ごと移植するのは臓器移植ですが、組織移植は心臓弁などの臓器を形成する一部を移植することをいいます。

日本国内での組織移植は心臓弁・血管・皮膚・骨・膵臓組織の組織移植が可能となっています。

出典元:臓器移植と組織移植の違い (東京大学医学部附属病院組織バンク)

臓器も組織も他人のものであることから、移植する際には拒絶反応への管理が非常に重要です。拒絶反応とは、体内の免疫によって移植された臓器や組織を異物とみなし、攻撃される現象のことを指します。

拒絶反応を回避するためには、ABO血液型の一致、HLA型の一致、免疫抑制剤の使用などが重要とされています。

 

論文①

Live birth after allografting of ovarian cortex between monozygotic twins with Turner syndrome (45,XO/46,XX mosaicism) and discordant ovarian function

2011年にベルギーのJacques Donnez博士らより発表された論文です。

Jacques Donnez博士は卵巣組織移植の第一人者の医師で、初めて卵巣組織移植により生児を得た報告をしたことでも有名な方です。

この論文について、内容を簡単にご紹介いたします。

〇姉妹について

・一卵性双生児で二人ともターナー症候群(モザイク型)

・姉(レシピエント):思春期発来の遅れ、無月経、挙児希望あり

・妹(ドナー):14歳時に初経、ホルモン値正常、すでに2人の男児を出産

〇治療内容について

・レシピエントである姉は2回卵子提供を受けるも、妊娠に至らず。

・ドナーである妹より片側の卵巣組織を姉に移植できないかと医師に相談あり。移植が実施された。

⇒同日に手術実施。ドナーの妹より卵巣組織の一部を切除し、レシピエントの姉の卵巣領域へ組織を移植。一卵性双生児のため、免疫抑制は不要。

・卵巣組織移植後、レシピエントである姉は卵巣機能が正常化し、10か月後に自然妊娠した。

この論文は、一卵性双生児のため組織移植による拒絶反応が起こらないことや、姉妹ともモザイク型のターナー症候群であるのにもかかわらず、卵巣の機能に大きな違いがあることが興味深い点です。

 

論文②

First successful ovarian cortex allotransplant to a Turner syndrome patient requiring immunosuppression: wide implications

この論文は2025年にアメリカのSherman J. Silber博士らが発表した論文です。

Sherman J. Silber博士はアメリカの卵巣組織凍結-移植の大家です。

内容を簡単にご紹介いたします。

〇姉妹について

・姉(ドナー):22歳、X染色体2本の正常核型、2児を出産している

・妹(レシピエント):20歳、モザイク型ではなく、からだのすべての細胞がX染色体1本のターナー症候群、無月経で卵巣機能が非常に低い状態

・姉妹のHLA型は同一であるが、ABO血液型が異なる

・彼女たちが信仰する宗教の理念により、ドナー卵子を用いた体外受精治療は禁止されている

〇治療内容について

・ドナーである姉の片側卵巣を摘出し、非常に薄くした皮質組織をレシピエントである妹に移植。

・移植当日にレシピエントである妹は免疫抑制剤の投与を開始、腎臓移植と同様のプロトコルにて免疫抑制剤を継続して投与された。

・卵巣組織移植後5ヶ月で卵巣機能が正常化、移植組織の拒絶反応も起こらなかった。

・卵巣組織移植から1年半後に自然妊娠し、40週で健康な女児の赤ちゃんを出産。

一般に、ABO血液型が異なる場合は、臓器や組織の移植は禁忌とされています。

しかし、この論文では卵巣組織は血管の再構築を必要としない機序で生着し、拒絶反応なくドナーの卵巣組織が機能したことを報告した点が非常に画期的です。

 

今回ご紹介した論文では、姉妹からの卵巣組織移植を受けたターナー症候群の報告ですが、

ターナー症候群の方においても、若年であれば自身の卵巣組織凍結によって妊孕性温存が可能となる場合がございます。

 

卵巣組織凍結は主にがん患者さまにおける妊孕性保存目的で行われます。

治療開始までの猶予が限られている場合や、小児症例などが主な対象となります。

現在では、がん患者さまに限らず、今回ご紹介したターナー症候群や自己免疫疾患のある方に対しても、将来的に妊孕性の喪失が見込まれる場合には、卵巣組織の凍結保存を考慮すべきとの見解が示されています1,2)。

 

当院ではがん以外の疾患の方における妊孕性温存の実施の経験がございますので、ご自身やご家族の妊孕性や温存方法について、ご不明な点がございましたらお気軽にご相談ください。

 

仙台培養部

宮本 若葉

 

参考文献


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