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医療コラム

学会報告 2025.08.12

卵巣転移リスクのある子宮頸がん患者に対する新しい妊孕性温存方法 〜摘出卵巣からの体外採卵成功事例〜

京野アートグループでは、がん治療と並行して妊娠の可能性を残す「妊孕性温存治療」にも力を入れています。今回は、高輪院において新しいアプローチでの妊孕性温存に成功した症例をご紹介します。

症例の概要

症例は30代前半、ステージIB3(腫瘍径4cm以上と大きい)の子宮頸がんと診断された女性でした。PET-CTによりリンパ節転移の疑いがあり、卵巣転移のリスクも考慮され、両側卵巣の摘出を含めた根治術の実施が決定されました。

患者さんとご家族は将来の妊娠を強く希望されていたため、がん治療前に「卵子と受精卵」の凍結保存を行うことが検討されました。通常、受精卵あるいは未受精卵子の凍結を行う場合は、採卵前に卵巣刺激を行い、その後経膣的な採卵が行われます。しかし、経膣的な卵子採取はがん細胞播種させてしまうリスクがありました。そこで今回、新たな試みとして「卵巣刺激後の摘出卵巣からの体外採卵(Ex vivo Oocyte Retrieval)」が選択されました。

治療の流れ

  1. 卵巣刺激
    ホルモン刺激により卵胞を発育させ、採卵に備えました。卵胞成熟は卵巣過剰刺激症候群によるがん治療への影響を考慮し、GnRHアゴニストが投与されました。
  2. 卵巣摘出と輸送
    がん治療の一環である広汎子宮全摘術の際に両側卵巣を摘出し、温度管理された電気保温ポット(33〜36℃)で約1時間かけてがん治療施設から当院(HOPE)に搬送しました。
  3. 体外での卵子採取と培養
    摘出された卵巣から、超音波ガイド下で卵胞液を吸引。12個の成熟卵が採取され、うち6個を凍結保存。さらに4個に顕微授精を実施し、2個の正常胚を凍結保存しました。

意義と展望

本症例は、卵巣刺激後に摘出された卵巣を輸送・保温管理しながら、初めて子宮頸がん患者での体外採卵に成功した世界初の報告のひとつです。

このアプローチにより、腫瘍穿刺リスクを避けつつ、妊孕性の温存が可能となる新たな選択肢が示されました。特に、卵巣を摘出する必要がある子宮頸がん症例において、従来は難しいと考えられていた卵子や胚の保存が現実のものとなります。

一方、課題としては、この患者さん自身は子宮を摘出しているため、自身の卵子or受精卵を用いて妊娠を目指す場合、代理出産を必要とする点が挙げられます。そのため、現状では広く日本で普及するにはハードルが高い方法になります。しかしながら、妊孕性温存の治療選択肢として、今回のアプローチがどこかで役にたつと信じて、医学論文という形で報告をしました。実際に海外の報告では、卵巣癌の根治術のために子宮と卵巣の摘出が必要であった症例において、代理母出産により生児を得た症例が報告されています(Fertil Steril, Vol 121, No.6, 2024)。

 

当院の取り組み

京野アートクリニックでは、2016年より日本卵巣組織凍結保存センター「HOPE(Human Ovarian Tissue Preservation Enterprise)」を設立し、全国の医療機関と連携した卵巣組織・卵子輸送体制を構築しています。がん治療と妊娠希望の両立を目指す患者様に、最適な妊孕性温存戦略をご提案いたします。

 

今後も妊孕性温存について精力的、そして革新的な取り組みを続けて参ります。

最後までお読みいただきありがとうございました。

https://doi.org/10.1142/S2661318225720016

 

医師部 笠原佑太


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