論文紹介 2025.10.07
当院の培養室では、日々の臨床に加えて「AIをいかに医療現場に役立てるか」という研究にも取り組んでいます。今回は、不妊治療に一般的な生成AIを具体的に活かした研究を報告しましたので、その内容をご紹介します。
なぜAIが大切なのか?
AIと聞くと「機械だけが仕事をするのでは?」という不安を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私たちが目指しているのはAIを人の代わりにするのではなく、時間のかかる作業を手助けすることで、胚培養士が卵子・精子・胚に向き合う時間を増やすための存在と考えております。
AIというと胚や卵子・精子の評価に使うイメージを持たれる方も多いと思います。しかし実際には、私たち胚培養士の仕事は顕微鏡の前に座る時間だけではありません。治療の結果を正しく把握するために、膨大なデータを解析することも大切な役割です。さらに、確かな技術だけでなく生物学的な知識も求められます。
このデータドリブンと呼ばれる、感覚や経験だけに頼らず、データを根拠にして意思決定や行動を行う考え方や手法はますます重要になってくると考えています。
以下が論文の概要となります。
Application of Large Language Models in Data Analysis and Medical Education for Assisted Reproductive Technology: Comparative Study. Noriyuki O, Mika I, Yuriko F, Hiromitsu H, Yuta Kasahara, Tai T, Koki Y, Tomoko H, Koichi K. JMIR Formative Res. 2025 Oct 1:9:e70107. doi: 10.2196/70107.
人工知能(AI)の進化は目覚ましく、医療の現場でもその存在感を増しています。特に「大規模言語モデル(LLM)」と呼ばれるAIは、単なる文章生成にとどまらず、膨大なデータを解析し、教育や診断の一部を支援する段階にまで発展しました。最近では、様々な難関国家資格に合格したことや数学オリンピックのメダル級の問題まで正解するようになっています。
私たちは、この先端技術を不妊治療の現場に社会実装することを目的に、不妊領域に特化させてAIを用いた臨床データ解析と医療教育評価を同時に行う試みを実施しました。
主な評価ポイントは以下の2点です。
・データ分析
・知識レベル
AIの性能評価は大規模言語モデルを代表する3つである
ChatGPT、ClaudeとGeminiの3種類の比較を実施しています。
研究の概要
患者さんへの還元
今回の研究は単なる技術評価にとどまらず、AIを実際に診療や教育にどう活かすかを示した「社会実装」の第一歩です。 大きな設備や専門技術者がいなくても使えるクラウド型AIを取り入れることで、中小規模のクリニックでも高度な解析や教育が可能になります。結果として、どの地域の患者さんでも、より均一で高水準な医療を受けられる未来につながると期待しています。
2025年8月の受精着床学会ではさらに、AIのこれらの技術を応用することで
よりセキュリティも高く、最新データを迅速に可視化するシステムが導入可能となる発表をいたしました。
当院におけるデータ可視化の実際やAIによるアプリ生成について
さいごに
AIは万能ではありませんが、私たち医療者と共に歩むことで、治療の質と安全性をさらに高めることができます。今回の研究で、私たちは世界に先駆けてその可能性を示しました。これからも「人とAIの協働」によって、不妊治療の新しいスタンダードを築き、安心して治療を受けていただける未来を目指します。
京野アートクリニック 高輪
培養部
奥山紀之
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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