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医療コラム

論文紹介 2025.10.29

前核期胚の透明帯人為的除去法について

こんにちは、仙台院培養士の佐々木です。

皆さまからお預かりして培養している受精卵を観察していると、中にはフラグメント (細胞の一部分が断片化したもの)が多く確認できるものもあります。このような受精卵は、残念ながら胚盤胞まで成長する確率が低く、胚移植や凍結まで至らないことがございます。

このようなフラグメントの多い受精卵の胚発生を改善することを目的に、「人為的透明帯除去法」が降案されました。今回はこの人為的透明帯除去法について検討を行った論文をご紹介いたします。

 

「Artificial removal of the zona pellucida at the pronuclear stage: an exploratory study to improve embryo fragmentation」

Yumoto K.,et al. F S Rep. 2024

 

こちらは日本の論文で、2016年1月~2020年1月に採卵を実施したものの、良好胚盤胞到達率が10%以下、初期胚のフラグメントの割合が多く妊娠不成立であった症例を対象としております。対象症例のうち、2020年2月~2021年1月に2回目以降の採卵を実施し、研究同意があった34組のご夫婦に今回の検討を実施しております。複数個得られた正常受精卵の一部に対して、透明帯を人為的に除去することで、透明帯を除去しなかった受精卵と比較し培養成績が改善するか検討した内容でした。

 

[方法]

正常受精が確認できた受精卵の透明帯の一部分にレーザーを用いて穴をあけ、その後培養液を細胞質と透明帯の間に吹きかけながら、透明帯から細胞質を取り出します。透明帯から細胞質を取り出した後は、タイムラプス培養を行っていきます。

同じタイミングで採卵し得られた受精卵のうち、透明帯除去を行わなかったものも同様にタイムラプス培養を行い、培養2日目のフラグメントの割合と培養5日目の胚盤胞到達率および良好胚盤胞到達率を比較しました。

(Yumoto. ZP removal may prevent excessive fragments. F S Rep 2024. FIGURE 2より引用)

(Yumoto. ZP removal may prevent excessive fragments. F S Rep 2024. FIGURE 2より引用

上段:未実施群、下段:透明帯除去実施群)

 

[結果]

以前の採卵で得られた受精卵よりも、今回の採卵で得られた透明帯除去を行った受精卵の方が、培養2日目のフラグメントの割合が低い受精卵が多く、培養5日目の胚盤胞到達率および良好胚盤胞到達率の割合が高くなりました。また、透明帯除去を行った受精卵は、透明帯除去を行わなかった受精卵に比べ、培養2日目のフラグメントの割合が低い受精卵が多く、培養5日目の胚盤胞到達率および良好胚盤胞到達率の割合も高くなりました。

症例あたりでみた凍結融解胚移植後の妊娠率も同様に、以前の採卵で得られた受精卵を移植した場合と比べ、今回の採卵で得られた透明帯除去を行った受精卵を移植した場合の方が高い値を示しました。また、透明帯除去を行った受精卵を移植した方が、透明帯除去を行わなかった受精卵を移植した場合と比較し、妊娠率が高くなりました。

今回の検討で透明帯除去を実施した受精卵を移植した後、6名の出産が確認できておりました。

 

2016年1月~2020年1月採卵群 透明帯除去実施群 未実施群
培養2日目

フラグメント≦20%

18.4 % a

(67/365)

58.4 % a b

(59/101)

23.6 % b

(17/72)

培養5日目

胚盤胞到達率

17.8 % a

(51/286)

66.3 % a b

(67/101)

18.0 % b

(9/50)

培養5日目

良好胚盤胞到達率

5.2 % a

(15/286)

48.5 % a b

(49/101)

6.0 % b

(3/50)

胚凍結率

(凍結胚数/正常受精数)

14.5 % a

(53/365)

45.5 % a b

(46/101)

15.2 % b

(11/72)

凍結融解胚移植妊娠率

(凍結融解胚移植数/症例数)

0.0 % a

(0/50)

32.0 % a b

(8/25)

0.0 % b

(0/4)

(TABLE 1 一部改変、同記号間で有意差あり)

 

 

[まとめ]

人為的透明帯除去法を実施することで、初期胚のフラグメントの割合が多く妊娠不成立であった症例において、培養2日目のフラグメントの割合の低下および胚盤胞到達率の向上といった胚発生の改善に効果がある可能性が示されました。この検討では、胚盤胞到達率および良好胚盤胞到達率が高くなったことにより、凍結できる受精卵を増やすことにつながりました。

ただし、全ての症例で効果があったわけではなく、適応症例の検討が必要であると述べられておりました。

透明帯除去を行った受精卵を凍結融解胚移植後に健康な赤ちゃんの出産が確認できており、今後は出生児の発育調査を行い、人為的透明帯除去法の安全性についての検討が必要不可欠とまとめられております。

 

比較的新しい培養技術のため、どのような症例に効果があるのか、出生児に対してどのような影響があるのか明らかになっていない部分もあるのが現状です。

全ての患者さまが対象の培養技術ではございませんが、当院でも過去の治療歴や胚発生の状況などから、医師が必要だと判断した場合に人為的透明帯除去法を実施することは可能です。

疑問点やご相談などございましたら、お気軽にお問い合わせください。

 

今後も皆さまにとってよりよい治療を提供できるように努めてまいります。

 

 

論文URL:https://www.fertstertreports.org/article/S2666-3341(24)00092-8/fulltext

 

京野アートクリニック仙台

培養部 佐々木千紗


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