1. TOP
  2. 医療コラム
  3. 保険診療で正しい男性不妊治療を 日常生活のはなし⑬ 自転車は精子に影響する?

医療コラム

コラム 2026.01.03

保険診療で正しい男性不妊治療を 日常生活のはなし⑬ 自転車は精子に影響する?

日常的に自転車使いますか?

栃木の田舎の出身の僕が子供の頃は、小学校1年生の頃には自転車は乗れて当たりまえ。友達と遊びに行くにはほぼ自転車でした。大学に入って、寮の同部屋だった横浜出身の同期が自転車に乗れないと言って、皆でびっくりして自転車を教えたことがありました。結局彼はめでたく自転車に乗れるようになり、5年生の地域医療の実習でも、訪問診療を自転車で回れるくらいになりました。

「自転車に乗ると精子に悪い影響がありますか?」

男性不妊外来で、比較的よく受ける質問のひとつです。通勤や日常生活使いだけでなく、健康や趣味での自転車を楽しんでいる方も多く、LOOPなどもありますが、日々の足としてはまだまだ欠かせません。そのため、妊娠を考え始めたタイミングで不安になる方も少なくありません。今回は自転車と精液所見の関係について、現在わかっている医学的知見をもとに解説します。

自転車の精巣に悪さをしそうな問題点とは何でしょう

自転車に乗って、精巣に影響しそうな問題点としては
①サドルにより陰嚢や会陰部が圧迫されて血流が悪くなったり、神経に負担がかかる
②太ももに挟まれ通気性が悪くなったり、発汗や摩擦により局所温度が上昇する
③高強度でトレーニングする人はそもそも体に負担がかかる
などが挙げられます。でひとつづつ見ていきましょう。

① サドルによる圧迫と血流・神経への影響

まず一つ目は、サドルによる陰嚢や会陰部の圧迫です。自転車に乗ると、体重の一部がサドルを介して会陰部にかかります。特に前傾姿勢が強いロードバイクや、長時間の走行では、この圧迫が持続しやすくなります。
会陰部には、精巣や陰茎へ向かう血管や神経が集中しています。長時間圧迫されることで、一時的に血流が低下したり、神経が刺激されることがあります。実際に、長距離サイクリストを対象とした研究では、陰部のしびれや感覚低下を経験する人が一定数いることが報告されています。1) そのため、長時間の使用はEDや尿道痛、血尿、会陰部の違和感などの原因にもなります。
もちろん会陰部の血流は、精巣が正常に機能するために非常に重要です。精子は日々作られており、その過程では十分な酸素や栄養が必要とされます。圧迫による血流低下が長時間続けば、精子を作る環境が一時的に悪化する可能性があると考えられています。
また、マウンテンバイクの競技では、激しい衝撃を体全体で受け止めながら走りますが、少なからずサドルと精巣の打撲があるためなのか精巣・陰嚢の超音波所見で微小外傷や異常所見が見られると報告されています。2) これらも精液所見に少なからず影響をもたらす可能性があります。

② 陰嚢温度の上昇と精子形成

二つ目は、陰嚢温度の上昇です。
精子は体温よりもやや低い温度で作られるという特徴があります。そのため、陰嚢は体の外にあり、温度を調節しやすい構造になっています。
しかし長時間自転車に乗っていると、太ももに陰嚢が挟まれるたり、サドルとの密着により通気性が低下したり、摩擦や発汗で熱がこもるといった状況が生じやすく、陰嚢の温度が上がりやすくなります。陰嚢温度の上昇と精液所見の関係については、これまで多くの研究が行われてきました。
精巣周囲の温度が慢性的に高くなると、精子濃度や運動率が低下する傾向があることが報告されています。3) これは自転車に限った話ではなく、長時間のサウナや、きつい下着の着用なども同様の影響を及ぼすとされています。

③ 高強度・長時間のトレーニングによる影響

三つ目は、高強度で長時間トレーニングを行う場合の全身への負担です。
競技志向のサイクリストや、週に何時間もトレーニングを行う方では、身体に強い負荷がかかります。過度な運動は、エネルギー不足やホルモンバランスの変化、慢性的な疲労やストレスなどをを引き起こすことがあり、これらは間接的に精子形成へ影響を与える可能性があります。実際、横断研究では、週に5時間以上自転車に乗る男性で精子濃度が低い傾向が示された報告もあります。4) 以前の運動を扱ったコラムでも過度な運動は精液所見を低下させることを書いていますのでリンクを張っておきます。

ただしここで重要なのは、これらの影響は主に「長時間・高頻度・高強度」の場合に認められている点です。

では日常ではどのくらい気にしたらいいのか

ここまで読むと、「やはり自転車はやめた方がいいのでは?」と感じる方もいるかもしれません。しかし、通勤や買い物、軽い運動としての自転車利用については、過度に心配する必要はありません。
多くのくの研究で問題となっているのは、「長時間・高頻度・高強度」のサイクリングです。前述した論文では一方で、短時間のレクリエーション目的の自転車利用では、明確な悪影響は確認されていません。3) むしろ、適度な運動は体重管理やストレス軽減につながり、生殖機能にとってプラスに働く面も多くあります。


それでも気になる方や、長距離サイクリングが趣味の方は

ケアを考える時は以下のような工夫を意識するとよいでしょう。

  • 長時間連続して乗らず、途中で休憩を入れて、クールダウンする。

  • 会陰部の圧迫が少ないサドルをつかい、きちんとフィッティングをする。

  • ジェルパッド入りのものなど、クッション性の高いサイクルパンツを使用する。

  • 蒸れにくい服装を心がける

「自転車をやめる」のではなく、負担を減らしながら続けるという考え方が現実的だと考えます。


日常から趣味、競技までうまく付き合えばそれほど問題ない

僕もロードバイクは好きで以前はよく乗っていました。大学で働いている頃は、片道20㎞くらいだったので、週に2-3回は自転車で通っていたこともあります。いまは長距離は少しさぼっていますが、家の周り数キロなら自転車を使います。僕もロードバイクの乗り始めは会陰が痛くて「ほんとにこんなの乗れるのか」と思いましたが、色々フィッティング調整をしつつ、乗り続けるうちに、乗る技術も上がって痛みなく乗れるようになりました。やはり自転車に乗っていて負担に感じる方や、痛みが出る方はサドルを調整したり、乗る回数を減らした方がいいかもしれません。そうでなければ、ある程度なら気にせず載っていただければ問題ないと考えます。

1) Sommer F, König D, Graft C, Schwarzer U, Bertram C, Klotz T, Engelmann U. Impotence and genital numbness in cyclists. Int J Sports Med. 2001 Aug;22(6):410-3. doi: 10.1055/s-2001-16248. PMID: 11531032.
2) Frauscher F, Klauser A, Stenzl A, Helweg G, Amort B, zur Nedden D. US findings in the scrotum of extreme mountain bikers. Radiology. 2001 May;219(2):427-31. doi: 10.1148/radiology.219.2.r01ma42427. PMID: 11323467.
3) Jung A, Schuppe HC. Influence of genital heat stress on semen quality in humans. Andrologia. 2007 Dec;39(6):203-15. doi: 10.1111/j.1439-0272.2007.00794.x. PMID: 18076419.
4) Wise LA, Cramer DW, Hornstein MD, Ashby RK, Missmer SA. Physical activity and semen quality among men attending an infertility clinic. Fertil Steril. 2011 Mar 1;95(3):1025-30. doi: 10.1016/j.fertnstert.2010.11.006. Epub 2010 Dec 3. PMID: 21122845; PMCID: PMC3043154.


診療時間

診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)

診療時間
7:30〜16:30
(最終予約 15:00)
日曜は 8:30~14:00(受付は12:00まで)で診療いたします
祝日も休まず診療いたします
診療内容によって予約可能時間が異なります。
不明点はスタッフまでお問い合わせください。

ご予約・お問い合わせ

03-6408-4124

お電話受付時間
月・水〜土:
8:00〜16:30
日:
8:30〜12:00
祝日は曜日に順じます
当院ではお電話での待ち時間短縮と対応品質向上のため、自動音声による目的別案内システムを採用しています。
2022年3月卒業予定者対象