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医療コラム

コラム 2026.07.09

保険診療で正しい男性不妊治療を 病気のはなし⑦ 食中毒は男性不妊に影響する?

食中毒が増えてくる時期になりました。

これからの時期に起こりやすい病気に「食中毒」があります。
20年以上前の僕が研修医のころの話ですが、救急外来にいると明らかに食中毒が増えてくる時期がありました。話を聞くと案外みんな同じものを食べており、当たるものはやっぱり当たるんだなと実感しました。しかし当たりそうなもののほうが美味しかったり、季節感のあるものがおおく、悩ましくもあります。
多くの場合は下痢、腹痛、嘔吐、発熱などが数日で改善し、1週間ほどで日常生活に戻れるでしょう。しかし、妊活中ですと一時的に精子の状態へ影響する可能性があります。

食中毒の何が悪い

まず大切なのは、食中毒の原因菌そのものが直接、精巣や精子を攻撃するというよりも、食中毒に伴う発熱、脱水、全身炎症、酸化ストレスが精子形成に影響する可能性があるという点です。牡蠣の食中毒はだめだけど、鶏肉の食中毒は大丈夫というわけではありません。
食中毒は一般的に発熱と下痢嘔吐による脱水が起こります。これらの体への負担によって精子が悪くなってしまいます。

発熱の影響は

実際、Carlsenらは健康男性27人を16か月追跡し、発熱後の精液所見を検討しました。その結果、発熱が精子形成の減数分裂期や精子完成期に重なると、精子濃度が約33〜35%低下し、正常形態率の低下や不動精子の増加も認められました。1)また、Sergerieらの報告では、39〜40℃の発熱後に総精子数、運動率、生存率が低下し、発熱15日後に精子DNA断片化(DFI)も上昇しました。2)  DFIが高いとIVF/ICSI後の妊娠率が低下し、流産率が上昇する報告もあります。3)

脱水の影響は

脱水は身体に大きな負担をかけます。
脱水とは、下痢や嘔吐が続くことで、体内の水分と電解質が失われ、体が摂取する水分量よりも失う水分量が多くなり、通常の身体機能を保つための水分が不足した状態です。各内蔵の機能を低下させ、場合によっては命の危険になりうることもあります。脱水と精子の関係を直接調べた大規模な研究は、現時点では十分ではありません。ただし、大きな身体的ストレスが精液所見に悪影響を及ぼすことは、これまで多く報告されています。食中毒による脱水も、精子にとって負担になりうると考えるのが自然です。
脱水は酸化ストレスの面からも注意が必要です。ヒトを対象とした運動負荷研究では、3%脱水状態で運動を行うと酸化ストレスやDNA損傷が増え、水分補給により回復期の酸化ストレスが軽減されたと報告されています。4) そのため、食中毒後に高熱、炎症、脱水が重なった場合には、精液量の低下だけでなく、運動率やDFIにも一時的な影響が出る可能性があります。

妊活中に食中毒になったらどうする

では、食中毒になったら妊活は中止すべきでしょうか。多くの場合、数日で改善する軽症の食中毒であれば、過度に心配する必要はありません。
ただし、タイミングをとっている方などは身体的接触などでパートナーにも感染することがあります。そのため、性交渉は体調が回復するまでは控えたほうが良いでしょう。

精子に悪影響が出そうな場合

ただし、38℃以上の発熱が数日続いた、強い脱水があった、連日の点滴や抗菌薬治療を受けた、体重が大きく減った、という場合には、その後1〜3か月の精液所見が一時的に悪化する可能性があります。
精子が形成されて、射出されるまでは3か月程度かかるといわれていますので発熱などがあっても、その後健康な状態が保てれば3か月程度で回復してきます。
体調が回復した後は、熱や炎症の影響を受けた精子を入れ替えていくことも大切です。そのため、禁欲期間を長くしすぎず、射精回数をある程度保つことは、一つの対策になります。

発熱や食中毒後の検査で所見が悪かった場合

妊活中の男性で食中毒後に精液検査を受ける場合は、発症からの日数を医師に伝えることが大切です。発熱直後〜数週間以内の検査結果だけで「男性不妊が悪化した」と判断するのは早すぎる場合があります。
所見が悪かった場合は、2〜3か月後に再検することで本来の状態を評価しやすくなります。特に体外受精や顕微授精を予定している場合、食中毒後の高熱があったときは、採卵や精子提出のタイミングについて主治医と相談するとよいでしょう。

予防策は

予防としては、食中毒を避ける基本がそのまま妊活対策になります。十分な加熱、生ものの管理、手洗いなどはかからない予防策になります。
かかってしまったら、きちんと病院にかかり、脱水予防、発熱対策、十分なの休養が重要です。
食中毒は多くの場合、一過性の病気です。しかし、男性の精子は熱や炎症に敏感です。特に妊活中は「高熱が出た後の精液検査は一時的に悪くなることがある」、「DFIにも影響する可能性がある」、「再評価するなら2〜3か月後」ということを知っておくと、必要以上に不安にならず、適切なタイミングで検査や治療を進めることができます。

1) Carlsen E, et al. History of febrile illness and variation in semen quality. Hum Reprod. 2003;18(10):2089-2092.

2) Sergerie M, et al. High risk of temporary alteration of semen parameters after recent acute febrile illness. Fertil Steril. 2007;88(4):970.e1-970.e7.

3)Zhao J, et al. Whether sperm DNA fragmentation has an effect on pregnancy and miscarriage after IVF/ICSI: a systematic review and meta-analysis. Fertil Steril. 2014;102(4):998-1005.e8.

4) Paik IY, et al. Fluid replacement following dehydration reduces oxidative stress during recovery. Biochem Biophys Res Commun. 2009.


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