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医療コラム

論文紹介 2026.07.15

【論文紹介】見えない品質管理:凍結試薬本体の温度管理の重要性

胚培養士の宮本です。

今回は卵子や受精卵(胚)を凍結保存する際に用いている、「凍結試薬」の温度管理に関する論文をご紹介します。

 

Serdarogullari M, et al. Media temperature control: a potentially important quality control parameter in human oocyte vitrification. Reprod Fertil. 2026;7(2):RAF260003.

 

今年の5月に発刊されたばかりの論文となります。

卵子や胚凍結では、ガラス化(vitrification)という状態にして凍結保存を行います。

ガラス化とは、細胞の中に氷の結晶を作らず、一瞬でガラスのような状態にして凍結保存する方法で、高い生存率が得られることから世界中で広く用いられています。

 

凍結による傷害は、主に氷の結晶が細胞内にできることに起因します。

氷の結晶を作らないためには、細胞の中の水分を十分に抜く(脱水する)ことが重要になります。

ガラス化凍結では、卵子や胚を凍結保護剤を含む凍結試薬に浸し、細胞内の水分を凍結保護剤と置き換えるように脱水を進め、十分に脱水が完了してから液体窒素で急速に冷却して凍結保存を行います。

 

図. ガラス化凍結の仕組み

 

これまでの卵子や胚の凍結保存における研究では、凍結手法や冷却速度などが研究対象であり、

一方で凍結試薬そのものの温度についてはあまり着目されていませんでした。

今回紹介する論文では、卵子を凍結する際の試薬の温度が低い場合、その後の胚発生に影響する可能性を報告しました。

培養室内の温度、および凍結試薬の温度を管理しなかった群(非管理群)と、しっかり管理した群(管理群)の間で、凍結した卵子を融解後、顕微授精を行い、その後の発生を比較しました。

 

Table2 改変

非管理群 管理群 P値
室温 22.85 ± 0.839 24.77 ± 0.09776 <0.001
凍結試薬の温度 19.65 ± 0.839 23.85 ± 0.3780 <0.001
凍結卵子数 87 83
凍結卵子生存率 92.0% (80/87) 98.8% (82/83) 0.08
受精率 87.5% (70/80) 84.1% (69/82) 0.67
前核期発生停止率 14.3% (10/70) 0.0% (0/69) <0.001
前核消失後の非分割率 28.6% (20/70) 0.0% (0/69) <0.001
分割期発生停止率 50.0% (35/70) 0.0% (0/69) <0.001
分割率 57.1% (40/70) 100.0% (69/69) <0.001
胚盤胞形成率 7.1% (5/70) 81.2% (56/69) <0.001

 

この結果から、卵子を凍結する時の凍結試薬の温度が低いと、正常に発生する割合、胚盤胞まで発育する割合が低くなることが示されました。

 

なぜ凍結試薬の温度がここまで成績に影響するのでしょうか?

温度が低くなると、ガラス化凍結で重要となる「凍結保護剤」が細胞の中に入りづらくなることが要因と考えられます。

物理化学的な話をすると、物質の「拡散」や「細胞膜の透過性」は温度に依存します。温度が低くなると、両方が低下してしまい、凍結保護剤が細胞内に浸透しにくくなります。

今回の論文の結果では、卵子自体の生存性には影響しないくらいの、小さなストレスが卵子に作用し、発生停止などの影響が出たことが推察されます。

 

 

培養室では、顕微鏡で卵子や胚を観察することだけが仕事ではありません。

 

室温や培養器の温度はもちろん、

・培養液、ミネラルオイル

・凍結試薬、融解試薬

・操作時間

など、多くの条件を細かく管理しています。

 

今回の論文は、

「凍結試薬の温度」が卵子の将来の発育に影響する可能性があることを示し、可視化されにくい部分への管理にも着目すべきであることを示した興味深い論文でした。

 

当院はJISART(日本生殖補助医療標準化機関)の認定施設として、日々の品質管理にも力を入れています。

より良い治療の提供のため、今回ご紹介した論文などを参考に、今後も最新の知見を取り入れながら、より安全で質の高い培養環境づくりに努めてまいります。

 

仙台培養部

宮本


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