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医療コラム

論文紹介 2026.07.29

最新の培養技術×AIで見る「受精卵の収縮」と妊娠の関係

タイムラプスインキュベーターの普及により、従来の人による非連続的な観察では見られなかった胚(受精卵)の変化も評価できるようになりました。

これにより、胚の発育過程をより詳しく評価することが可能となっており、その中で【胚の収縮】が胚の遺伝学的な状態(正常胚か異常胚か)に影響を与えている可能性が指摘されています。 胚の『収縮』とは、不妊治療における培養過程で、成長している胚盤胞(受精卵が育った最終段階の状態)が一時的にきゅっと縮小する現象のことです。

以前は決まった時間にしか観察できなかったため見逃されがちでしたが、最新の「タイムラプスインキュベーター」の普及により、胚がどのように動いているか詳しく観察できるようになったことで、この現象が注目されるようになりました。


タイムラプスのおさらい


論文の紹介に入る前に、タイムラプス培養を行うことのメリットについて簡単にまとめてみます。

  • 連続的な観察が可能になる: 従来の観察方法では、決まった時間にインキュベーターから取り出して断続的にしか胚の状態を確認できませんでしたが、タイムラプス技術により、これまでは見逃されていた胚の変化も評価できるようになりました胚がどのように育っていくのか、その全過程を詳しく追うことができます。例えば、胚盤胞が形成された後(tB後)に起こる「収縮」の回数やその時期といった、非常に細かな動きまで把握することが可能です
  • 胚を同じ環境で培養できる:従来は胚の状況を確認するためにインキュベーターから取り出して確認していましたが、その必要がなくなることで常に安定した環境で培養することができます。
  • 胚の選択精度が向上する: タイムラプスで得られた詳細なデータ(収縮の有無や回数など)を分析することで、その胚が遺伝学的に正常である可能性(正倍数体率)を推測する指標として活用できます。さらにタイムラプス画像をAIで解析することで、人の目では捉えきれない特徴を識別・定量化し、胚の品質評価に役立てることができますこれにより、より適切な胚(妊娠の可能性が高い胚)を選択することに繋がります

このように、タイムラプスインキュベーターは、胚を外に出さずに安全に培養しながら、より多くの情報を収集して胚選びの精度を高められる点が大きなメリットです なお、日本ではタイムラプスインキュベーターを用いた培養を行うことが、保険診療と併用できる『先進医療』に登録されているため、希望される多くの方に提供することができます。


胚の遺伝学的な状態とは?


胚の評価は形態学的な評価遺伝学的な評価に分かれます。

従来の人による観察やタイムラプス培養は形態学的な評価にあたりますが、最も正確に評価できるものが遺伝学的な評価です。

その遺伝学的な評価を行う検査として、着床前胚異数性検査(PGT-A)というものがあります。

この検査では、胚盤胞の一部を採取して遺伝子的解析を行うことにより、妊娠する可能性がある胚かどうかを調べます。

その結果、正常な胚か異常な胚(妊娠しない、あるいは流産してしまう)かを判別していきます。

長くなるため、詳細はここでは記載しませんが、もっと知りたいという方はぜひスタッフまでおたずね下さい。

なお、PGT-Aは日本では保険診療との併用ができない検査であるため、全ての方にお受けいただけるものではない点には注意が必要です。


胚盤胞の収縮と異数性の関係について


今回は、着床前遺伝学的検査のために生検を行った胚のタイムラプス画像をAIで解析し、胚盤胞の収縮について、その特徴と胚の発育状況や遺伝学的な状態との関連を検討することで、より適切な胚選択につながる指標となる可能性を評価するというコンセプトの論文を紹介いたします。

「Multiple collapses of blastocysts after full blastocyst formation is an independent risk factor for aneuploidy ー a study based on AI and manual validation」

「完全胚盤胞形成後の胚盤胞の複数回の収縮は異数性の独立したリスク因子である ― AI解析および手動検証に基づく研究」Jin L, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2024 Jul 15

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39010092/

【背景】

胚盤胞の収縮の発生は、着床前胚の品質評価指標となる可能性があります。これまでに、収縮する胚盤胞は異数性率の上昇や臨床成績の低下につながる可能性が報告されています。本研究では、人工知能(AI)によって識別・定量化された胚盤胞収縮の特徴を解析し、胚盤胞収縮と胚の倍数性、臨床転帰との関連を検討しました。

【方法】

本研究では、2019年1月から2023年2月までに単一の大学附属不妊治療センターで実施された1071件のタイムラプス培養下着床前遺伝学的検査周期における、3288個の生検済み胚盤胞データを対象とし、移植された胚盤胞はすべて正倍数性胚でした。胚盤胞収縮が胚の倍数性、妊娠、出生に及ぼす影響について、1196個の正倍数性胚および1300個の異数性胚のデータを用いて解析しました。

【結果】

結果1: 「収縮の発生状況」

正倍数性胚、異数性胚のいずれにおいても、約7割の胚では収縮は認められず、残りの約3割の胚では胚盤胞収縮が認められました。 結果2: 「tB後の収縮回数と倍数性の関連」

tB後(tB: Gardner分類におけるBlastocyst stage 3に相当)に収縮した胚は、非収縮胚より正倍数体率が優位に低く、2回以上収縮した胚は、収縮が1回のみの胚より正倍数体率が優位に低下していました。 結果3: 「胚盤胞収縮による妊娠への影響」

収縮した胚と非収縮胚では妊娠率に有意な差は認められませんでした。

【考察】

tB後に複数回の胚盤胞収縮を認めた胚では、異数性率が有意に上昇していました。また、収縮回数が増加するほど正倍数体率は低下していました。

一方で、正倍数体胚を移植した場合には、収縮の有無による妊娠率に有意差は認められませんでした。


要約すると


【最新技術でわかる、受精卵の「収縮」と妊娠への影響】

調査によると、約3割の受精卵にこの収縮が見られます。研究の結果、ある程度成長した段階で収縮が起きる受精卵は、染色体の数に過不足がある可能性が高いことがわかってきました

特に、収縮の回数が多ければ多いほど、その可能性は高くなる傾向があります

一方で気になる妊娠率ですが、染色体の数が正常な受精卵であれば、収縮が起きたとしても、起きていない受精卵と比べて妊娠率に大きな差はありません

「収縮」という動きは、受精卵の健康状態を推測する新しい「質」の目安の一つとなります。

当院では今後もタイムラプスインキュベーター×AIを活用し、より妊娠の可能性が高い受精卵を優先的に選ぶための大切な指標として役立てていきます。


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診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)

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