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医療コラム

論文紹介 2026.08.19

BMIが高い(肥満)と、良好な胚を移植しても妊娠成績に影響が?

肥満は妊娠や不妊治療の成績に影響することがある」という話を、耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

今回は、2026年に Fertility and Sterility 誌に発表された、約1万5千人の体外受精患者を対象とした「肥満と妊娠成績」に関する興味深い研究をご紹介します。

今回紹介する論文

Whitehead C, Lefebvre K, Seli E.
Obesity is associated with an increased risk of early pregnancy loss after euploid frozen embryo transfer.
Fertil Steril. 2026;126:265–274.

この研究では、PGT-Aでeuploid(染色体数の大きな過不足を認めない)と判定された胚を1個だけ凍結融解胚移植した患者さんを対象として、BMI 30以上の女性とBMI 30未満の女性で妊娠成績を比較しました。プライマリーアウトカム(最もこの論文で評価したかった項目)は「妊娠喪失」です。

この研究における「妊娠喪失」には、

    1. 妊娠反応が陽性となったものの、胎嚢の確認に至らなかったケース
    2. 胎嚢を確認したものの、その後、生児獲得に至らなかったケース

が含まれています。

結果、BMI 30以上の女性では、BMI 30未満の女性と比べて妊娠喪失の相対リスクが約19%高く、生児獲得の可能性もやや低いことが示されました(図A)。

さらにBMIを細かく分けて解析すると、BMIが高くなるにつれて妊娠喪失リスクが段階的に上昇していました(図B)。

一方、BMI 25.0~29.9の「過体重」の女性では、BMI 18.5~24.9の普通体重の女性と比較して、妊娠喪失リスクの明らかな増加は認められませんでした。

 

この研究から何がわかるか?

この研究の大きな特徴は、PGT-Aeuploidと判定された胚だけを移植した症例を解析していることです。

流産の大きな原因のひとつは胚の染色体数の異常ですが、本研究ではその影響をできるだけ小さくしたうえでも、BMI 30以上の女性で妊娠喪失リスクとの関連が認められました。

つまり、肥満と妊娠喪失との関連は、少なくとも「胚の染色体数の異常」だけでは説明しきれない可能性があります。

著者らは、その背景として慢性炎症、インスリン抵抗性、子宮内膜の機能や脱落膜化など、妊娠を維持する母体側の環境が関与している可能性を挙げています。

ただし、この研究は過去の診療データを解析した観察研究です。そのため、「肥満そのものが妊娠喪失の原因である」と証明した研究ではありません。

 

また、

「治療前に体重を減らせば、体外受精の成功率が上がる」と証明した研究でもありません。

実際、治療前の減量について検討したランダム化比較試験やメタ解析では、減量によって体重や代謝状態は改善しても、生児獲得率が確実に向上するとは現在のところ示されていません。

 

日本の「肥満」の基準とは少し違います

ここでもうひとつ注意が必要です。

今回の研究で「肥満」とされたのは、WHOの分類によるBMI 30以上の女性です。

一方、日本肥満学会ではBMI 25以上を「肥満」と定義しています。

しかし、本研究ではBMI 25.0~29.9の女性では、BMI 18.5~24.9の女性と比べて妊娠喪失リスクの明らかな増加は認められませんでした。

したがって、この研究をもとに「日本の基準で肥満となるBMI 25を超えると流産が増える」と解釈することは適切ではありません。

 

まとめ:大切なのは「急いで痩せること」ではなく、適切な体重管理

日本では2025年9月にPGT-Aの対象が拡大され、「女性が高年齢の不妊症の夫婦」が新たに対象に加わりました。当時は女性年齢35歳以上が目安とされています。

時間や費用をかけてPGT-Aを行い、euploid(A判定)と判定された貴重な胚を得た患者さんにとって、「できるだけ良い状態で移植したい」と考えるのは自然なことだと思います。

一方で、短期間で無理に体重を減らすことが目的になってはいけません。

日本肥満学会の「肥満症診療ガイドライン2022」では、肥満症に対する減量治療として、まず36か月で現体重の3%以上の減量を目標とする考え方が示されています。ただし、これはすべての不妊治療患者さんに一律に当てはめる目標ではなく、BMIや合併症などによって目標は異なります。

不妊治療では、体重だけでなく年齢、卵巣予備能、治療歴、得られている胚の数なども重要です。減量のために治療を長期間延期することが、すべての患者さんにとって有効とは限りません。

今回の研究は、「良い胚を移植すれば体重の影響はなくなる」とは言えないことを示す興味深いデータです。

このコラムが、無理なダイエットではなく、日頃の食事や運動、体重管理について改めて考えるきっかけになれば幸いです。

 

京野アートクリニック仙台 院長 笠原佑太


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