コラム 2023.09.14
こんにちは。胚培養士の柴崎です。
今回は、妊孕性温存目的で凍結された精子がどれくらい使用されているのか、またその治療成績についてご報告いたします。
主に悪性腫瘍の治療のための化学療法、放射線療法は、精子を造る機能に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、病気の治療の前に、精子を予め凍結保存する、妊孕性温存目的の精子凍結が近年広く実施されるようになりました。しかし、凍結された精子がその後どれくらい使用されているのか、またどれくらいの症例が妊娠まで至ったのか、未だ不明な点が多いのが現状です。そこで今回、妊孕性温存目的の精子凍結の予後と治療成績について、当院のデータをまとめましたので、皆さまにお知らせいたします。
【対象】
1997年1月~2022月9月に当院にて妊孕性温存目的による精子凍結を試みた311症例
【結果】
まず、精子凍結を試みた311症例のうち、実際に精子凍結を施行したのは288症例(92.6%)でした。年別の凍結件数は、下記のグラフのように、2012年まで年々増加し、その後はほぼ横ばいでした (図1)。
図1 年別の凍結件数
凍結精子の保管状況は、廃棄済みが68.1% (196/288)、凍結保存中が28.8% (83/288)、他施設への搬送等が3.1% (9/288)で (図2)、最も長く保管している症例の凍結期間は19年でした。
図2 凍結精子の保管状況
妊孕性温存目的で精子を凍結した288症例のうち、ART治療で使用されたのは38症例で、使用率としては13.2%でした。凍結精子を使用した顕微授精の成績は下記のとおりです。
表1 ART成績
採卵数 (個) | 7.7±5.9 |
卵子成熟率 | 72.6% (413/569) |
受精率 | 60.8% (251/413) |
変性率 | 8.5% (35/413) |
未受精率 | 16.9% (70/413) |
Day3良好胚率※ | 39.3% (90/229) |
胚盤胞率 | 54.6% (113/207) |
良好胚盤胞率※ | 33.3% (69/207) |
※良好胚定義: 培養3日目は7細胞以上、割球が均一かつフラグメンテーションの割合が10%以下、培養5日目は胚盤胞3BB以上、6日目は4BB以上。
胚移植周期あたりの臨床妊娠率は39.5%、出産率は30.2%で、症例あたりで換算すると60.5%が出産まで至りました (図3)。
図3 妊娠成績
まとめ
→使用率については他の施設からの報告とほぼ同等でした。
→採卵時の女性の年齢が比較的若かったことが主な要因だと推測されます。
妊孕性温存目的の凍結は、凍結保存期間が長くなる傾向にあるため、凍結物を保管しているタンクや患者さまの情報など、凍結後の管理も長期間に亘って安全に行われる必要があります。
当院では、以前より仙台院だけでなく、盛岡院、高輪院と全ての施設において、男性、女性ともに妊孕性温存治療にも積極的に取り組んでいます。
当院の妊孕性温存治療について詳しい内容が知りたい方はこちらをご覧ください。
☞https://ivf-kyono.com/medical/fertility-preservation/
また、過去のコラムにも妊孕性温存についての情報が掲載されています。
「がんと生殖補助医療」https://ivf-kyono.com/column/post-6382
「妊孕性温存:卵子・受精卵・卵巣凍結の有効性?」https://ivf-kyono.jp/column/4411/
「卵巣凍結・卵巣移植の最新情報について」https://ivf-kyono.com/column/post-5834
治療への不安や疑問が少しでも解消できるよう、今後もコラムを通じて様々な情報をお伝えしていきますので、ぜひ覗いてみてくださいね。
京野アートクリニック仙台培養部
柴崎 世菜
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
診療時間 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
7:30〜16:30 (最終予約 15:00) |
AM のみ |
03-6408-4124
お電話 受付時間 |
|
---|