論文紹介 2023.09.28
こんにちは。胚培養士の中澤と申します。
今回は、精子のDNA損傷を調べることの有効性について述べられた論文をご紹介します。
DNAは紫外線や酸化ストレスによって切断されることがあり、損傷したDNAを持つ細胞は正常に働かなくなります。そのためDNAが損傷している精子は受精しても胚発生に悪影響を及ぼします。現在、実施されている精液検査は基本的に形態的な評価のみであり、目に見えないDNAの損傷については専門の検査を受けないと分かりません。
この論文では、SCF(Sperm Chromatin Fragmentation)という値でDNA損傷の程度を比較しています。SCFの値は、DNAが切れた個所の割合を示しています。SCFは15%未満が正常と定義しており、15-20%を中等度の異常、20%以上を重度の異常としてグループ分けされています。このグループ分けをした条件で正常群と
の妊娠成績の比較を報告しています。
SCFのグループ別に精液所見を比較すると、SCFが高いほど精子の運動率は低くなります。
比較群:42.4% 正常:41.2%, 中等度:36.2%, 重度:23.3%
同様に、SCFのグループ別に妊娠成績を比較すると、SCFが高いほど受精率、着床率、妊娠判定の陽性率、妊娠率、出生率が低くなりました。
ここで、SCFが高い男性への治療選択の内容として、精巣内から精子を直接回収するTESEまたは、スパームセパレーター(Zymot)と呼ばれる精子自身の力で泳がせて運動性の特に良かった精子を回収するデバイスを使用した方法のいずれかで成績が改善するか実施しました。
SCFが高い群では着床率、妊娠率、出生率、流産率が有意差をもって改善されました。
研究結果から、精子DNA損傷を調べることは具体的な治療方針を立てることに繋がり、妊娠成績の改善が可能でした。
また、当論文では触れられていませんが、精子のDNA損傷の原因の一つに精索静脈瘤があります。当院では、精索静脈瘤低位結紮術という手術を保険診療で行っており、DFI検査(自費検査)というより詳細にDNA損傷を調べる検査を受けていただくこともできます。
ご希望がある際はご相談ください。
今回の治療選択に挙げられたTESE(保険適応)やスパームセパレーター(先進医療)についても実施可能施設として登録されており、TESEについては男性不妊の泌尿器科専門医が対応しております。
当院では様々な選択肢によって患者様に一番適した治療選択を進めております。
何かご不明点などあればお気軽にお声がけ下さい。
TESEについての過去のコラム
保険診療で正しい男性不妊治療を~無精子症の話①無精子症かなと思ってから治療までの流れ~
保険診療で正しい男性不妊治療を~精索静脈瘤の話① 精索静脈瘤って結局何なのか?~
高輪培養部 中澤
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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