2024.08.16
TESEをしているときに培養室は戦場の様に忙しくなります。精子を劣化させないために出来るだけ手早く処理し、検索していく必要があるためです。
手術と精子検索の手順を書いていくと
①僕は手術室で精巣を切開した後、手術用の顕微鏡で精巣組織を見比べ、よさそうなところを採取し、手術室担当の培養士に渡していきます。
②隣の培養室では組織を処理する係の培養士が組織の重量や状態などを記録し、細胞が組織から外に出て観察しやすいように、組織をすりつぶすように細かく刻み、培養液で適切な濃度に薄めます。その後、組織を観察するためにシャーレ(皿)に組織を混ぜた液体を塗り、乾燥しないようにオイルでカバーします。この作業に1-2人の培養士が必要です。それを組織ごとに作成していきます。
③精子を検索する担当の培養士は、顕微鏡を使ってシャーレに塗られた精巣組織を観察します。ほんの横10mm、縦20mm程度に塗り広げているものですが、200-400倍で拡大しているので、広大な池から1匹の魚を探すような作業になります。ここにも2人以上の培養士が必要になります。
当院では以前書いたMMTSEで組織チェックを行います。詳細はこちらをご覧ください
コラム:保険診療で正しい男性不妊治療を 新しい無精子症の手術について② MMTSE(Micro Mapping Testicular Sperm Extraction)の目的と開発
https://ivf-kyono.com/column/post-6921
この方法では、培養士は少なくとも8つの組織を迅速に処理し、速報を出してくれます。精子がいるのか、どの部分の組織の状態がよりいいのか、いないとしても、精子になりそうな細胞がどのくらいあって、どこまで育っているのか、細胞の割合はどのくらいか。そういったことの報告を上げていきます。そうして最も良いと思われる精子が見つかった組織や、細胞の育ちがよさそうな部分を中心に組織を採取していきます。この培養士の作業は精子の状態などに対する判断が必要で習熟度も重要なので、我々のクリニックでは同じ役割を一定期間継続的に行い、あるレベルに達するまで上級スタッフとともにトレーニングしていきます。習熟した者は次のスタッフに教えることで更に理解が進むことが期待できます。
精子が取れてもやはりMicro TESEで取れた精子は弱弱しかったり、動かなかったりもします。精子数に余裕があれば、TESEの際に精子の生存試験を行い、反応があるかを確認します。その反応や精子の濃度などで、必要な組織量を決め、培養士は僕に追加の組織をとるように伝えたり、婦人科と採卵時の卵子活性化などの処理をどのように行うかを打ち合わせます。
またそういった状態の決して良くない精子ですので、ストレスを極力与えないためにそれらのチェックをする精子以外は出来る限り素早く凍結保存します。
これらの対策を、精子が取れてすぐ行うことが重要と考えます。まだチームの温度が高いうちにある程度決めておかないと、やはりカルテの記録だけでは書き表せない部分もあり、後になってしまうと方針にぶれが生じます。
前もって何をするか患者さんと決めておかなければならないことも多く、とにかく準備が重要になります。
この辺の温度感が、どうしても検索する培養士とICSIする培養士の関係性が希薄だったり、TESEした医師と婦人科の医師の間でディスカッションをして直接情報共有ができなかったりすると、うまく伝わりにくいと感じます。
当院でも精子を持ち込み、治療される方はいらっしゃいます。
がん治療の際に精子凍結を行い、その精子を当院に移送して不妊治療をされる方や、転居など致し方ない事情で、お話合いの上、TESEの組織を持ち込まれる方もいらっしゃいます。その際に我々にとって難しいのは精子の状態がどのくらいどのように悪いかが分からないことです。
患者さんが持参される紹介状には、通常精液所見が書かれているだけです。所見が良ければいいですが、所見の悪い方は精子の有無のみの場合もありました。精巣組織では、もちろん精子は見つかったとおもわれますが、運動精子の有無程度の記載にとどまることが普通です。しかしそれは致し方ないことで、自分で精いっぱい精子の状態を記載したとしても、精子の有無、1視野に何匹位見えるか、運動の状態(前進・尾部のみ・動きなし)、形態、生存試験の反応性位でしょうか。やはり温度感は伝わらないような気がします。
また組織や精子は一度溶かしてし再凍結するとかなり劣化してしまうため基本的には採卵前の組織の確認は行えません。初回の採卵時にぶっつけ本番で解凍してその場で対応するしかありません。培養士は可能な限りの最大限対応をしてくれますが、先に決めておかなくてはいけないことは、その場の判断で出来ないこともあります。やはりその状態は患者さんにとってベストではないと考えます。
培養士の業務はだれがやっても同じ結果をもたらすものではなく、練度や知識、経験がかかわってきます。そのため、ICSI・TESEに限らず、不妊治療の成績は医師・設備に加え培養士の要素が大きくかかわってきます。TESEの時に精子の状態がイマイチでも、培養士は以前の経験や知識から、どうすればうまくいか、ICSIをする際何が問題になるかを推測し、その後行われるICSIに向けて準備をします。
その経験や知識は我々医師とは種類の違う知識になるので、医師が全てを決めるのではなく、培養士の意見をもとに判断していくことが重要になります。
そういった違った知識を持つチームが一緒に考えることで、難しい症例を妊娠まで進めることができると考えます。
TESEは精子をとるのが目標になってしまいがちですが、とにかく妊娠出産が目標です。我々のクリニックでは、その患者さん、スタッフともども目標にシンプルに向かっていけるように環境を整え、レベルの高い医療サービスを行えるよう努めています。
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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