コラム 2025.07.29
こんにちは。生殖医療相談士の越智です。
不妊治療は、多くの夫婦にとって人生の大きな節目であり、未来への希望をつなぐ大切なステップです。その中で、「現在通っているクリニックに満足がいかない」「もっと自分に適した治療を受けたい」と考える方も多いでしょう。
こうしたときに選択肢となるのが「転院」です。しかし、転院にはメリット・デメリットが存在し、慎重に判断する必要があります。
また、転院しづらい、という声が非常に多く、物理的な制約はない中でも、どこかがひっかかり悩んでいるという方は非常に多いと思います。
今回は、生殖医療相談士の立場から、不妊治療における転院の基礎知識と、どういったケースで転院を考えるべきかについて、俯瞰的に解説します。
少々ボリューミーですが、どうぞお付き合いいただけますと幸いです。
不妊治療に関する法律や制度上、原則として医療機関の「転院」に規制は存在しません。
患者さんは自分の意思で医療機関を選び、必要に応じて転院することが認められています。
これは、患者の権利として安心して適切な医療を受ける権利が保障されているためです。実際、治療の進行中でも、医師と相談のうえで、より良い医療が受けられると判断すれば、いつでも転院が可能です。
そのため、医療機関側が転院を拒否できることはないですし、どのような治療においても、必ず同意の撤回の自由、が存在していますので、転院できない!ということはない、ということをあらかじめ知っておいてください。
ただし、医療機関によっては「紹介状」の提出を求められることが通常です。
特に、不妊治療の場合、年齢と回数の制限がありますので、あと何回、保険での治療ができるのかということは、医療機関側も事前に確認する必要があります。
また、治療の観点からも、紹介状がなければ、一から基本的な検査や治療を行う必要が出てきます。
そのため、紹介状は必須ですし、これまでの検査や治療の結果も可能な限り提出することが求められます。
患者さん本人にとって、紹介状や検査結果を持たずに転院することはリスクがはるかに大きいと考えられます。
また、「紹介状を書いてください」、と申告することに心理的な抵抗があるケースもあるでしょう。
確かにお世話になっているドクターに自ら切り出すのはなかなかハードルがあるかもしれませんが、背に腹は変えられないものですし、看護師さんや、受付のスタッフの方経由で依頼するなど、やり方はいくらでもありますので、パートナーと相談するなどして、自分たちが一番依頼しやすい方法を考えるのがベストだと思います。
転院を検討すべきタイミングやケースはさまざまですが、代表的な例を挙げてみましょう。
治療を進める中で、医師の説明や提案が理解しにくい、自分の価値観と合わないと感じたり、自分の体質に合った治療方法が示されない場合は、転院を考える理由となり得ます。患者さんの希望やライフスタイルに沿った治療計画を提案できる医療機関に変えることで、治療に対するモチベーションも維持しやすくなります。
ただ、治療や検査に関しては、誰にでも実施できるものではない治療や検査が存在します。
医療用語でいう「適応」が存在するためです。
体外受精の場合、
というような基準があり、そのいずれかを満たしているかどうかが重要となります。
例えば、妊娠を希望している方で30歳の御夫婦がいるとします。
タイミングを取り出して3ヶ月。
夫婦ともに、基本検査の結果、大きな不妊原因が見当たらない。
この場合に、体外受精の適応を満たすことがないため、実施することができません。
自由診療であれば、その辺りの適応の解釈度合いは自由になっていきますが、保険診療では厳密に定められているため不可能です。
さらに、例えば、できるだけ受精卵を貯めておきたい、という要望があるとして、これも保険診療で行うことはできません。
仮にルールを破り、それを実施した場合には、患者さん御本人も医療機関もペナルティを受けることになり、患者さん側にとっては例えば、全額自己負担となってしまうなどの可能性もあります。
このように、保険制度、医療制度の制約がある中で、現在の治療が提供されている可能性もありますので、よく調べないうちから「自分にあった治療をしてもらえていない」と断じてしまうのは、リスクが高いということを理解しておく必要があります。
地理的な理由や交通手段の制約で通院が難しい場合もあります。
特に、頻繁に通院や注射、検査が必要な治療では、継続的な通院が大きな負担となることがあります。このような場合、アクセスの良い医療機関への転院を検討すると、ストレスや負担が軽減され、治療を継続しやすくなります。
特定の検査や治療技術がその医療機関では提供されていない場合も、転院を検討すべき理由の一つです。
例えば、高度な胚培養や顕微授精の技術、詳細な検査設備を備えている医療機関に移ることで、より正確な診断や高度な治療を受けることが可能になります。
治療の効果が見られず、何度も同じ治療を繰り返している場合も注意が必要です。
先述の通り、不妊治療には適応があります。
つまり、失敗を繰り返している場合には、通常とは異なるなにか別の妊娠しづらい原因がある可能性があり、そのための治療法もあります。
例えば、
・なかなから受精卵が育たないのに同じ卵巣刺激や授精、培養方法を継続しているような場合
・繰り返して流産をしているのに、何も追加で検査してくれない
・男性側に原因があるが、特に男性側の治療はなんの説明もなく、実施もしてくれない
というような場合には特に注意が必要でしょう。
このようなケースは医療方針の見直しや別のアプローチを試す必要性を示しています。異なる考えや新しい治療法を試みるために、専門性の高い医療機関に転院し、セカンドオピニオンを得ることも一つの選択肢となります。
医師や医療スタッフとの信頼関係が築けず、相談や説明に不満や不安を感じている場合も、転院を検討するタイミングです。患者さんが安心して治療に臨める環境を整えることは、妊娠を目指す治療において非常に重要です。
ただし、繰り返しになりますが、医療機関には国の定めている制度による制約があるのも事実です。その内容は、患者さん側から見ると、理解の難しいものかもしれませんが、決まりである以上は、それを相互に守ることが大前提になります。
そのうえで、信頼関係がどうしても構築できないのであれば、転院する方が妊娠へたどり着ける可能性は高まると思います。
一方で、以下のような状況では、転院をせずとどまったほうが有効な場合もあります。
信頼できる医師や医療機関で、多くの選択肢や高度な医療技術が提供されている場合は、焦って転院せずに、現在の環境を活用しながら治療を続ける方が良いという場合もあります。
その中で、医師と相談しながら最善策を模索することが、治療成功への近道になるからです。
繰り返しになりますが、検査や治療には適応がありますし、特殊な治療技術は一定の基準を満たしていないと実施できないものが多数あります。
そうした観点から、大変なことではありますが目の前の治療成果だけではなく、その医療機関がどれほどの治療や検査の選択肢を持っているのか、ということを把握しておきましょう。
医療技術や知見は日々進化しています。現在の医療機関が最新の治療法に対応し、治療方針も適宜アップデートされている場合は、現状で十分な治療を受けている可能性があります。
また、うまくいっていない場合に、前回とは異なるアプローチを加えているケースもあります。
そのため、焦って転院せず、まずは担当医と今後の方向性について相談することが重要です。
このアプローチを経ずに転院しても、結局同じことをもう一度繰り返すだけになってしまったというコメントも多くいただきます。
時には「急がば回れ」というアプローチも必要ということなのかもしれませんね。
長年の実績と多くの妊娠例を持つ医療機関は、安心して治療を任せられる場所です。
つまり、多くの不妊治療患者さんの対応をしてきた場合、なかなかうまくいかない患者さんの症例を経験していることが多いということになります。
特に、不妊治療の経験豊富な医師がいる場合、その技術と知識が治療の成功率を高める要因となります。
転院はメリットだけでなく、さまざまな課題やリスクも伴います。これらを理解したうえで、判断を行うことが重要です。
ここではメリットとデメリットを箇条書きでまとめて記載します。
不妊治療において、転院は一つの大きな決断です。自身の体調や治療状況、医療機関の特長をよく理解した上で判断することが重要です。基本的には、患者さんがより良い医療を受けられる環境へ移ることは、治療成功の可能性を高める一つの選択肢となり得ます。しかしながら、転院にはメリットだけでなくリスクや課題も伴います。
当クリニックでは、患者さん一人ひとりの状況に合わせて、最適なタイミングと方法での転院支援や情報提供を行っています。迷ったときは、担当の医師やスタッフに遠慮なくご相談ください。妊娠への道のりは一人ひとり異なりますが、私たちは皆さまの不妊治療のパートナーとして、最善のサポートを心掛けています。
今後も不妊治療の最新情報や役立つ知識を提供し、皆さまが納得して治療に臨める環境づくりに努めてまいります。どんな小さな疑問や不安も遠慮なくお話しくださいね。
最後に、希望を持って前向きに治療に取り組む皆さまの幸せと健康を心からお祈り申し上げます。
また、体外受精のクリニックを探しているという方には、理事長の京野廣一が執筆したコラムもぜひご確認いただければと思います。
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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